医師国家試験の翌朝
7時に目が醒めた。半開きの目で窓をのぞくと、真っ白の世界が広がっている。昨夜の帰り道、「降りる駅、間違えた??」と戸惑うくらいに雪が降り積もっていた。そのときは暗くてよく見えなかったが、朝は日の光ではっきりと見えた。混じり気のない純白色が地面を、平等に染め上げていた。そのことに不思議と感心した。人間が気にも留めないような部分まで、徹底的に白い。「ここだけは積もらんくてええか〜」という手抜きを、雪は絶対にしない。
自宅から歩いて、喫茶店へ向かう。たんぽぽの綿毛のように、雪が宙を漂っている。踏み心地は片栗粉のように、軟らかくて固かった。ただいつもの道に雪が降り積もるだけで、こんなにも心動かされるのかと驚いた。医師国家試験という一大イベントを終えたことで、未来をいったん横に置けるようになり、それで目の前の現実を味わう余白ができたのだと思った。いつもの道にあるもの、その香りを、色合いを、肌触りをただ感じるだけで、脳天から足底まで多幸感に包まれた。
今朝の気温は今年に入って最も低いに違いないが、不思議なことに寒さをまったく感じなかった。「寒い」というネガティブな意味が溶け去り、「ただそうである」という感覚だけが残る。それは微かに熱を帯びていた。
扉を開けると、鈴が鳴る。いつものウェイター。いつもの音楽。いつもの室温。なぜここに来たのか。昼まで寝たいとか、海外に行きたいとか、誰かに会いたいとか、そういうのじゃなくて、ただ導かれるように、ここに来た。
いざ医師国家試験が終わり、春から医師になれそうだと判明したとき、そのことをいち早く報告したいと思い浮かぶのは、志摩で出会った人が圧倒的に多い。これはすごいことだと思う。当然お金では代替できない繋がり、豊かさ。