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休学中のあれこれ1

4年前に医学部を休学した。最初に始めたのはホストだった。求人サイトを眺めて、適当に選んだ店に体験入店して、その場でそこで働くことを決めた。自分でもなぜやってみようと思ったのか分からない。単なる興味本位だったと思う。

3ヶ月しか続かなかった。今またホストをやるとしたら、もっと突き詰めることができたかもしれない。ただ当時は3ヶ月が限界で、むしろそこで辞めて正解だったとも思う。もし夜の世界にハマっていたら、復学することも大学を卒業することも叶わなかったかもしれない。昼職ではイメージできない怖さが夜職にはある。4年前の出来事なんてほとんど思い出せないのに、ホストの経験は鮮明に思い出せることが多い。それくらい強烈なエピソードの連続だった。

酒は嫌いじゃないが、強くはない。昼夜逆転で身体はダルい。コミュニケーションも嫌いじゃないが、得意じゃない。騒々しい空間は苦手。ワイワイできるタイプでもない。陰キャの自覚あり。面白い返しもできない。

ただ実際に働いてみると、案外いけた。女の子と会話してお金がもらえる。こんなにすばらしい仕事は他にないと一時期は思った。ただ地獄なときは徹底的に地獄だった。直前に一発数百万のシャンパンタワーのMCを任されたときは、緊張でどうにかなりそうだった。どれだけ酔いが回っても、理性を保つことだけは死守した。セルフ嘔吐反射で酔いをリセットする術も、そこではじめて学んだ。明らかにヤバそうな人と恐る恐る関わった。そんなこんなで度胸はついた。

大阪での寮生活を始めた。3LDKの間取りで5人で住んでいた。部屋は汚かった。自分は潔癖ではないので大丈夫だったが、今思うとほんとうに汚かった。この経験のおかげか、部屋にも水場にもゴキブリが常駐するインドの安価な宿でも、ほとんど抵抗感なく寝泊まりできた。

当時お世話になったキャストの一部を簡単に紹介するぜ!

ひとりは全く売れてないのに、寮でゲームばかりの激ヤバ太郎。事あるごとにイライラする。ここまで○したくなる人っているんだと驚いた。ただ悪い人ではない。今どうしてるんだろうか。大丈夫かな。

ひとりは売れてるし親しみやすいが、酔うと頭のネジが何本も外れる系。ただ売れてるので周りは何も言えないし、結局は許してしまうような愛嬌があった。いつもハイライトのメンソールを吸っていた。どこか人として狂ってないと、夜の仕事は無理かもと思った。また狂っていることは悪ではなく、むしろ受け入れることで凄まじい魅力になり得ることを知った。

ひとりはホスト歴が長く、未経験の自分を可愛がってくれる兄のような存在。この人がいなかったら、3ヶ月どころか数日で辞めていた可能性が高い。仕事のあれこれを教えてくれた。何度も勇気づけられた。たぶん30歳を超えた今でも、なんとか楽しく働いてると思う。

ひとりは自分と同時期に働き始めて、細身の小柄で落ち着いた印象。たしか両親と縁を切っていた。本心が分かりにくく、深く関わることはなかった。性格面は自分と少し似ていたかもしれない。自分が辞めたあと、売れたらしい。

最後のひとり、この人とは同じ部屋で寝泊まりした。自分よりも2〜3歳上だろうか。面倒見がよくヘルプにもつかせてくれたが、突如その姿を消してしまった。その後しばらくしてから、内勤さんからその人が書いたと思われる手紙の内容を見せてもらったときに、いろいろと理由を察した。人間って怖いなあと思った。

上記のスタッフもそうだし姫もそうだが、いろんな意味で正規分布から外れた人と関わる経験は、自分のショットグラスにも満たない器を広げてくれた。それ以降、人の言動に驚くことがほとんどない。たいていのことは「まあそういうこともあるよね、人間だし」と思えるようになった。まったく別世界の住人に思える。そういう人と仲良くはなれなくても、毛嫌いせず関われるようになったのは、間違いなくホストを経験したおかげだと思う。

さきほど無意識で正規分布という表現を使ったが、これも自分の主観的な物差しにすぎない。本来は「外れる」とか「外れない」の線引きはない。ただ単にそういう人間がいるだけである。

何をもって正常、異常とするか。この基準は人によってさまざまで、世界の捉え方も受け取り方もバラバラ。これを生物学者のユクスキュルは「環世界」と呼んだ。この環世界の多様性を知っていくことは楽しい。昼の世界があれば、夜の世界がある。科学の世界があれば、スピリチュアルの世界がある。人の世界があれば、虫の世界がある。

次はどんな世界が待っているのか。


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